「便利」の先に残るものを考える
飲食店を経営していると、できるだけ自分たちでやろうとすると仕事が増えていきます。
経理、集客、SNS、ホームページ、求人、デザイン、配送、予約管理、清掃、仕入れ。
店主一人、あるいは少人数で全部をやろうとすれば、当然限界があります。
だから、外注する。
これは決して悪いことではありません。
むしろ、人手不足や専門人材の不足が課題となっている小規模事業者にとって、外部の人材やサービスを活用することは重要な経営手段です。中小企業庁の白書でも、アウトソーシングによって不足する人材・ノウハウを補ったり、業務効率化やコスト削減につなげたりする効果が確認されています。
ただ、私は飲食店の外注について、もう一つ考えておきたいことがあります。
それは、
「外注した結果、自分の店には何が残るのか?」
ということです。
外注することと、事業を外に預けることは違う
例えば、経理を税理士にお願いする。
これは分かりやすい外注です。
自分でやるより専門家に任せたほうがいい。
その間に店主は、商品開発や接客、スタッフ育成、顧客との関係づくりなど、本来やるべき仕事に時間を使える。
これは外注によって、店主の時間という経営資源を取り戻しているとも考えられます。
一方で、
「集客はグルメサイトから」
「新規客はクーポンで獲得」
「商品はフランチャイズ本部から供給」
「販促は広告会社に任せる」
「予約はプラットフォーム経由」
「売上管理は外部サービス」
「SNSも業者に任せる」
となっていったらどうでしょうか。
もちろん、それぞれのサービスが悪いわけではありません。
問題は、
「自分の店が選ばれる理由まで、外に預けていないか」
ということです。
「便利」と「強い」は同じではない
飲食店では、便利なサービスがたくさんあります。
食材を仕入れる。
予約システムを使う。
デリバリーサービスを使う。
広告を出す。
SNS運用を外注する。
ホームページを作ってもらう。
人材紹介サービスを使う。
これらによって、店主一人ではできなかったことができるようになります。
ただし、
便利になったことと、店の経営基盤が強くなったことは同じではありません。
ここは分けて考えたほうがいい。
例えば、あるサービスを使うことで月100万円の売上が作れたとします。
それ自体は大切なことです。
でも、そのサービスを止めた瞬間に、
- お客さんが来なくなる
- 商品を作れなくなる
- 販売できなくなる
- 顧客情報が残らない
- 店の認知がなくなる
- 売上を作る方法が分からなくなる
のであれば、
その100万円は「自分の店が持っている売上」と言い切れるでしょうか。
ここで考えたいのが、
「借りている力」と「自分で持っている力」
です。
借りている力と、自分で持っている力
例えば、集客について考えてみます。
借りている力
- グルメサイトの掲載力
- 広告媒体の集客力
- デリバリープラットフォームの顧客基盤
- フランチャイズブランドの知名度
- インフルエンサーの発信力
- クーポンによる集客力
これらは非常に強力です。
小さな店が一から作るより、すでに大きな仕組みを持っている会社の力を借りたほうが早いこともあります。
一方で、
自分で持っている力
- 店独自の商品
- 店を好きになってくれる顧客
- リピーター
- 顧客との関係
- 口コミ
- 店の世界観
- 店主やスタッフへの信頼
- 独自の販売方法
- 顧客のデータ
- 自分たちで集客できる仕組み
- 商品開発力
- 店舗運営のノウハウ
こちらは、積み上げるのに時間がかかります。
だからこそ重要です。
外注すべき仕事と、自分で持つべき仕事
では、何でも自社でやればいいのか。
私はそうは思いません。
むしろ小さな店ほど、外注するものを選ぶことが重要です。
一つの判断方法として、
「その仕事を外に出したとき、自分たちの時間が空くのか。それとも、自分たちの強みまで外に出てしまうのか」
を考えてみるといいでしょう。
例えば、
| 仕事 | 外注との相性 | 考え方 |
|---|---|---|
| 税務・会計 | 高い | 専門性が必要 |
| 法務 | 高い | 専門家に任せる意味が大きい |
| 清掃 | 高い場合がある | 店主の時間を生み出せる |
| デザイン | ケース次第 | ブランドの核は店側に持つ |
| SNS投稿作業 | ケース次第 | 作業は外注、発信の方向性は店側 |
| Web制作 | ケース次第 | 制作は外注、顧客理解は店側 |
| 広告運用 | ケース次第 | 運用は外注しても、顧客理解は自社に残す |
| 商品開発 | 慎重に | 店の強みそのものになり得る |
| 接客 | 基本的に自社 | 顧客体験の中心 |
| 顧客との関係 | 自社 | 長期的な資産になりやすい |
| 「なぜこの店を選ぶか」 | 自社 | 外部に丸投げしない |
重要なのは、
外注するか、しないかの二択ではない
ということです。
「作業」は外に出してもいい。
でも、
「判断」まで外に出してはいけない仕事がある。
「作業」と「経営」を分ける
例えばSNS。
毎日投稿する作業は、外注してもいいかもしれません。
しかし、
「うちのお客さんは誰なのか」
「なぜこの店に来るのか」
「どんな投稿に反応するのか」
「何を伝えると店に来たくなるのか」
まで外部の業者に任せてしまうと、少し違ってきます。
なぜなら、その情報こそが、
店のマーケティング資産になるからです。
同じことは商品開発にも言えます。
料理人にとって、
「何を作るか」
「誰に食べてもらうか」
「なぜこの商品を作るのか」
は事業の中心です。
そこを外部に全部委ねてしまえば、店主自身に残るものは「運営」だけになってしまう可能性があります。
「売上の源泉」を自分で説明できるか
ここで、以前の記事から続けて考えてみます。
その売上は、誰の力によって発生しているのか?
これは非常に重要な質問です。
例えば月商500万円だったとしても、
「なぜ500万円売れているんですか?」
と聞かれて、
「このサイトから送客されているから」
「このブランドだから」
「この広告を出しているから」
「このプラットフォームに掲載しているから」
という説明しかできないなら、一度立ち止まって考えてみる必要があります。
もちろん、それらを使うこと自体は問題ありません。
むしろ使うべきケースもあります。
ただ、その売上の中に、
自分たちが育ててきた顧客、自分たちの商品、自分たちのブランド、自分たちの集客力
がどれくらい含まれているのか。
ここを見るのです。
外注費ではなく「何が残るか」で考える
外注を考えるとき、
「月3万円だから安い」
「月10万円だから高い」
だけで判断するのも危険です。
例えば月10万円の外注費を払って、
店主の時間が月50時間空く。
その50時間を商品開発や営業、顧客との関係づくりに使えるなら、単純に「10万円のコスト」とは言えません。
反対に、月3万円で集客を外注して、
毎月新規客は来るけれど、契約をやめたら集客が止まる。
そのうえ、顧客について自分たちには何も分からない。
そうなら、
「3万円で集客できた」
だけではなく、
「3万円を払い続けないと集客できない構造になっていないか」
まで考えたほうがいい。
小さな店ほど「何を残すか」が重要になる
大企業には、人材も資金もブランドもあります。
一方、小さな店は経営資源が限られています。
だからこそ、
すべてを自前で持つ必要はない。
むしろ外部の力を上手く借りることが重要です。
ただし、そのときに、
「何を借りるのか」
と同時に、
「何を自分の店に残すのか」
を決める。
この二つをセットにしたい。
例えば、
広告会社から広告運用を借りる。
その代わり、
「どんな客層が反応したのか」
「どんな商品が売れたのか」
「どんな言葉に反応したのか」
は自分たちの知識として蓄積する。
デリバリーサービスを使う。
その代わり、
「どの商品が売れるのか」
「どんな時間帯に需要があるのか」
「どんな客が注文するのか」
を分析する。
フランチャイズに加盟する。
その代わり、
「ブランドの力で売れている部分」と「自分の店だから売れている部分」を把握する。
こうすれば、外部サービスは単なる依存先ではなく、
自分の事業を強くするための外部資源
になります。
中小企業庁の白書でも、外部連携は自社だけでは不足する経営資源を補う手段として位置づけられており、外部との連携を活用しながら自社の経営資源を有効活用することの重要性が示されています。
最後に、一度この5つを確認してみる
新しいサービスを契約するとき。
外注を検討するとき。
フランチャイズに加盟するとき。
広告を出すとき。
デリバリーを始めるとき。
次の5つを考えてみてください。
1.このサービスを使うことで、店主の何時間が空くのか?
2.その時間を、何に使うのか?
3.このサービスをやめたら、何が失われるのか?
4.使った結果、自分の店に何が蓄積されるのか?
5.最終的に、お客さんがこの店を選ぶ理由は誰のものなのか?
外注の目的は「自分でやらないこと」ではない
外注の目的を、
「自分でやる仕事を減らすこと」
だけにしてしまうと、少しもったいない。
本当の目的は、
自分にしかできない仕事に、時間を使えるようにすること
だと思います。
そしてもう一つ。
外部の力を借りながら、自分の事業に力を蓄積していくこと。
これができれば、
外注は「依存」ではなく「レバレッジ」になります。
逆に、売上を増やすほど外部への依存が強くなり、店主の労働時間も増え、自分の店に何も蓄積されないのであれば、
その売上は本当に事業を強くしているのか。
一度考えてみる必要があります。
飲食店経営では、
売上を増やすことだけではなく、売上が増えた結果として「何が自分の店に残ったのか」を見る。
そこまで考えて、初めて事業が少しずつ「資産」になっていくのだと思います。






