家賃・システム・広告費を「売上を生む資産」として考える
飲食店を経営していると、
「家賃が高い」
「広告費がかかりすぎている」
「システム利用料が毎月出ていく」
「固定費をもっと下げないといけない」
と考えることがあります。
もちろん、固定費が重すぎれば経営は苦しくなります。
売上が減っても、家賃や固定的な人件費、通信費、システム利用料などは簡単には減りません。
日本政策金融公庫も、固定費を「売上に関係なく固定的に発生する費用」とし、損益分岐点を把握するうえで固定費と変動費を分けて考えることを説明しています。
ただ、ここで一つ考えたいことがあります。
固定費は、本当に「減らすべきコスト」なのでしょうか。
私は、もう一つの見方が必要だと思っています。
それは、
「この固定費は、毎月どんな売上を生み出すために存在しているのか?」
という見方です。
固定費は「毎月買っている経営資源」と考える
例えば、月30万円の家賃。
年間にすると360万円です。
数字だけ見れば、大きな固定費です。
でも、その30万円によって、
- お客さんが来られる場所を確保できる
- 店舗の存在を認知してもらえる
- 商品を提供できる
- スタッフが働ける
- 地域の人に店を覚えてもらえる
- リピーターとの関係をつくれる
のであれば、
単純に「30万円のコスト」とだけ見るのは少し違います。
同じ30万円でも、
何を生み出している30万円なのか
によって意味が変わります。
これは広告費も、システム利用料も同じです。
家賃は「場所代」だけではない
飲食店にとって、家賃は非常に分かりやすい固定費です。
しかし、店の立地は単なる「箱」ではありません。
その場所に、
- どんな人がいるのか
- どんな時間帯に人が動くのか
- 何の目的で訪れるのか
- 競合店は何を提供しているのか
- そのエリアで何が求められているのか
という市場があります。
以前の記事でも書いたように、
「この店は誰に、何を理由に選ばれているのか」
を見ることが重要です。
そう考えると家賃は、
「20坪を借りるためのお金」
ではなく、
「その地域の顧客と接点を持ち続けるためのお金」
とも考えられます。
もちろん、そうなっている場合に限ります。
家賃が高いことが問題なのではない
例えば、
家賃20万円の店と、
家賃40万円の店があるとします。
40万円の店だから悪い、20万円の店だから良い。
そんな単純な話ではありません。
40万円の家賃を払うことで、
「人通りの多い場所に出店できる」
「ターゲット顧客が多い」
「視認性が高い」
「ブランド形成に役立つ」
「テイクアウト需要も取れる」
という結果が出ているなら、その家賃には意味があります。
反対に、
家賃20万円でも、
「そもそも客層が違う」
「店の存在を知られていない」
「営業時間と人流が合っていない」
「家賃を払うために店主が長時間働いている」
のであれば、安いとは限りません。
だから見るべきなのは、
家賃の金額だけではなく、家賃によって何を得ているか。
です。
広告費も「経費」で終わらせない
広告費も同じです。
月10万円の広告費を使っている。
では、その10万円は高いのか。
これだけでは判断できません。
例えば、
10万円の広告から、
新規顧客が100人来た。
そのうち20人が再来店した。
さらに、その中から常連になった人がいる。
そうであれば、広告費は単純な「10万円の出費」ではありません。
一方で、
10万円使って100人来た。
でも広告を止めると誰も来ない。
顧客のことも分からない。
何が刺さったのかも分からない。
その場合は、
「10万円で100人を買っている」
だけになっている可能性があります。
もちろん、それが成立するビジネスもあります。
ただ、小さな店が長く続けていくことを考えるなら、
広告費を使った結果、何が自分の店に蓄積されたのか
まで見たい。
広告の目的を「売上」だけにしない
広告を見るとき、私は最低でも4つに分けたいと思います。
① 直接売上
広告を見て来店した。
これは最も分かりやすい成果です。
② 新規顧客
今まで店を知らなかった人に知ってもらえた。
③ 顧客理解
どんな人が反応するのかが分かった。
④ 自社への蓄積
再来店、口コミ、SNSフォロー、顧客との関係などにつながった。
この4つです。
特に④まで考えると、広告の見方が変わります。
システム利用料も同じ
予約システム。
POS。
会計ソフト。
顧客管理。
LINE。
デリバリー。
SNS運用ツール。
これらも毎月お金がかかります。
「月額5,000円だから安い」
「月額3万円だから高い」
だけではありません。
見るべきなのは、
そのシステムによって何が改善されたのか。
です。
例えば、
予約管理の時間が月20時間減った。
それなら、そのシステムは店主の時間を買っている。
POSによって、
「どの商品が売れているのか」
「何曜日が強いのか」
「客単価がどう変化しているのか」
が分かるようになった。
なら、そのシステムは単なるIT費用ではなく、
経営判断のための情報を買っている
とも考えられます。
ただし、「便利だから残す」は危険
ここまで書くと、
「じゃあ固定費は何でも残せばいいのか」
と思うかもしれません。
もちろん違います。
むしろ逆です。
固定費は毎月出ていくからこそ、
定期的に「本当に役割を果たしているか」を確認する必要があります。
例えば、
- 使っていないシステム
- 効果を測っていない広告
- 何となく契約しているサービス
- 昔から続けている外注
- 売上につながっていない掲載料
- 必要以上に広い物件
- 実際には使っていない設備
こうしたものは、
「固定費だから仕方ない」
ではなく、
「この費用は、今の自分の事業に何をもたらしているのか?」
と問い直したほうがいい。
「損益分岐点」を下げるだけでは足りない
固定費を考えるとき、もう一つ重要なのが損益分岐点です。
例えば、
固定費が月100万円。
粗利益率が70%なら、
損益分岐点売上高は、
100万円 ÷ 70% ≒ 143万円
になります。
固定費が80万円になれば、
80万円 ÷ 70% ≒ 114万円
まで下がります。
つまり、固定費を20万円下げれば、利益が出始めるラインも下がります。
これは非常に重要です。
日本政策金融公庫も、損益分岐点売上高を「採算が取れる最低限度の売上高」として説明しており、固定費を下げることは損益分岐点を下げる方法の一つです。
ただし、
固定費を下げることだけを目的にすると、売上を生み出す力まで削ってしまうことがあります。
例えば、
広告を全部やめた。
予約システムを解約した。
人を減らした。
狭い場所へ移転した。
結果として、
新規客が減った。
店主の仕事が増えた。
サービス品質が落ちた。
リピーターが減った。
となれば、
固定費は下がったけれど、事業そのものが弱くなっています。
「安い経営」と「強い経営」は違う
ここは、これまでの記事とつながります。
安い経営とは、
費用が少ない経営。
強い経営とは、
使ったお金や時間が、次の売上や顧客やノウハウを生み出す経営。
私は、この違いを意識したいと思っています。
例えば、
月10万円の広告費。
月3万円の予約システム。
月20万円の家賃。
それぞれが単純なコストに見えても、
その結果として、
- 顧客が増える
- リピーターが増える
- 店の認知が上がる
- 顧客データが蓄積される
- 店主の時間が空く
- 商品開発が進む
- 店のブランドが強くなる
なら、
その支出には「未来に残るもの」があります。
「売上を生む固定費」と「ただ残っている固定費」
私は固定費を、こう分けて考えると分かりやすいと思います。
| 固定費 | 見たいポイント |
|---|---|
| 家賃 | その場所が顧客との接点を生んでいるか |
| システム | 時間・情報・判断力を生んでいるか |
| 広告 | 新規客だけでなく顧客や認知が蓄積されているか |
| 外注 | 店主の時間を生み、強みを残せているか |
| 人件費 | 売上だけでなく運営能力を生んでいるか |
| 設備 | 生産性・品質・提供価値を高めているか |
こうして見ると、
「固定費=悪」
ではありません。
固定費によって、何を買っているのか。
そして、
それによって、何が残っているのか。
ここを見ることが重要です。
「この固定費をやめたら、何がなくなる?」
固定費を見直すとき、私はこの質問をおすすめします。
この固定費を明日やめたら、何がなくなるだろう?
例えば広告なら、
「新規客が減る」
だけでしょうか。
それとも、
「店の存在を知られる機会がなくなる」
「顧客データが取れなくなる」
「新しい商品のテストができなくなる」
というものもあるでしょうか。
システムなら、
「月額料金がなくなる」
だけでしょうか。
それとも、
「店主の時間が月20時間増える」
「数字が見えなくなる」
「予約管理ができなくなる」
でしょうか。
家賃なら、
「30万円が浮く」
だけでしょうか。
それとも、
「この場所の顧客との接点がなくなる」
「地域で積み上げてきた認知がなくなる」
でしょうか。
そして、もう一つの質問
ここまで考えたら、もう一つ聞きたい。
「この固定費を払い続けた結果、1年後に何が残っているだろう?」
これです。
1年間、毎月10万円広告を出した。
120万円使った。
では、何が残ったでしょうか。
売上だけでしょうか。
それとも、
- 新規顧客
- リピーター
- 顧客データ
- SNSフォロワー
- 口コミ
- 商品の改善データ
- ブランド認知
- 集客ノウハウ
が残ったでしょうか。
ここに大きな差があります。
事業は「費用を払って終わり」ではない
これまで、
「良い売上と悪い売上」
「外注するものと自分で持つもの」
「店主本人の労働を人件費として見る」
という話をしてきました。
今回の話も、実は同じところにつながっています。
売上を作るために、何を使っているのか。
そして、
使った結果、自分の事業に何が蓄積されているのか。
です。
家賃を払う。
広告費を払う。
システム費を払う。
人件費を払う。
外注費を払う。
それぞれの支出が、翌月またゼロから始まるのか。
それとも、
顧客、ブランド、ノウハウ、データ、仕組み、人材などが積み上がっていくのか。
ここを見ていきたい。
固定費を削る前に、5つだけ確認する
最後に、毎月の固定費を見直すときは、この5つで十分です。
1.この費用は何のために払っている?
2.この費用によって、どんな売上が生まれている?
3.売上以外に、何が蓄積されている?
4.この費用をやめたら、何が失われる?
5.1年後、この費用を払い続けた結果、店に何が残る?
固定費は「減らすもの」ではなく「働かせるもの」
飲食店の経営では、
「経費を削る」
という言葉がよく使われます。
もちろん、不要な経費は削ったほうがいい。
でも、それだけではありません。
大切なのは、
お金を使わないことではなく、お金を使った結果として事業を強くすること。
だと思います。
月30万円の家賃を払う。
月10万円の広告費を払う。
月3万円のシステム費を払う。
それ自体は、良いとも悪いとも言えません。
問題は、
そのお金が、何を生み出しているのか。
そして、
その結果が、自分の事業に残っているのか。
です。
売上を増やす。
利益を残す。
店主の時間を守る。
そして、
使ったお金が、次の売上を生む力として自分の店に蓄積されていく。
そこまでできると、飲食店は単に「毎月営業して利益を出す場所」から、
少しずつ、自分で自分の売上を生み出せる事業
になっていくのだと思います。






