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借入は悪なのか?

小さな店が「借金」とどう付き合うか

misecreative article vol.8


「借金はしないほうがいい」

そう考える人は少なくありません。

飲食店を始めるときも、

「できるだけ自己資金でやりたい」

「借金は怖い」

「借入が増えると経営が苦しくなる」

という感覚は自然なものだと思います。

実際、借入には返済があります。

利息もあります。

そして、売上が落ちても返済は待ってくれません。

だから、借入を軽く考えるべきではありません。

ただ、一方で、

「借入=悪」

と決めてしまうのも、少し違います。

日本政策金融公庫でも、飲食店の設備資金や、生活衛生関係の小規模事業者の設備・運転資金などを対象とした融資制度が用意されています。つまり借入は、事業を始めたり、設備を整えたり、運転資金を確保したりするための一般的な資金調達手段の一つです。

問題なのは、

「借りたか、借りていないか」

ではありません。

大切なのは、

「何のために借りて、借りたお金が何に変わり、その返済を何によって行うのか」

です。


借入は「未来のお金を先に使う」こと

借入をシンプルに考えてみます。

100万円を借りる。

すると、今100万円使えるようになります。

でも、その100万円は自分のお金になったわけではありません。

未来の自分が返す義務と引き換えに、今の事業に資金を持ってきた。

これが借入です。

だから、

「100万円増えた」

ではなく、

「100万円の資金を前倒しで使えるようになった」

と考えたほうが分かりやすい。


借入には「良い・悪い」より「使い道」がある

例えば100万円を借りたとして、

A

厨房設備を導入して、

  • 調理時間が短くなる
  • 人件費が下がる
  • 提供できる客数が増える
  • 商品の品質が安定する

ならどうでしょうか。

借りた100万円によって、

将来の売上や利益を生み出す力

をつくっています。

一方、

B

売上が足りない状態で、

「とりあえず今月の支払いを乗り切る」

ためだけに借り続ける。

そして来月も足りない。

また借りる。

さらに返済が増える。

こうなると、

借入によって事業を強くしているのではなく、事業の赤字を先送りしている

可能性があります。

同じ「借入」でも、意味はまったく違います。


借入金は「利益」ではない

前の記事で、

利益とキャッシュは違う

という話をしました。

ここでも同じことが起こります。

例えば、

銀行から500万円借りた。

口座残高が500万円増える。

でも、

利益は1円も増えていません。

これは非常に重要です。

借入によってキャッシュは増えます。

しかし、そのお金は将来返さなければいけない。

だから、

借入金によって「資金繰り」は改善しても、「収益性」が改善したとは限らない。

ここを混同しないことです。


「お金がある」と「儲かっている」は違う

例えば、

借入前

銀行残高:100万円

借入:500万円

借入後

銀行残高:600万円

になったとします。

一見すると、

「お金が増えた」

ように見えます。

しかし実際には、

500万円の返済義務も増えています。

だから、

口座残高だけを見て経営状態を判断するのは危険です。

少なくとも、

  • 現預金
  • 借入残高
  • 月々の返済額
  • 利益
  • 営業キャッシュフロー
  • 今後の大きな支払い

を一緒に見たい。


借入の目的は大きく2つに分けて考える

小さな飲食店なら、まず、

設備資金

と

運転資金

に分けて考えると分かりやすいです。


① 設備資金

厨房機器。

冷蔵庫。

空調。

内装。

店舗設備。

POSなど。

こうした、比較的長く使うものに必要なお金です。

日本政策金融公庫の飲食店向け一般貸付でも、設備資金が融資対象になっています。

設備投資の場合、

「何年使う設備なのか」

を考えることが重要です。

例えば、

5年間使う設備を、

「今月の売上だけ」

で回収しようとする必要はありません。

むしろ、

その設備が何年間にわたって、どれだけ売上・利益・時間削減を生み出すのか

を見る。


② 運転資金

仕入れ。

人件費。

家賃。

広告費。

光熱費。

その他、事業を回すための資金。

これらを支えるのが運転資金です。

ここで重要なのは、

運転資金と「赤字の穴埋め」を混同しないこと。

例えば、

「来月売上が入るけれど、今月の仕入れ支払いが先に来る」

という資金の時間差なら、運転資金として意味があります。

一方、

「毎月20万円赤字だけど、借りれば払える」

という状態なら、

借入をする前に、

なぜ毎月20万円足りないのか

を考える必要があります。


借入で「時間」を買うこともある

ここは少し重要な視点です。

借入は設備や仕入れだけではありません。

場合によっては、

事業が軌道に乗るまでの時間を買う

こともあります。

例えば新規出店。

最初の数か月は認知がなく、

客数が十分ではない。

しかし、

「商品は評価されている」

「リピーターが増えている」

「固定費を含めた損益分岐点に近づいている」

という状態なら、

一定の運転資金を持っておくことで、事業が育つまでの時間を確保できる場合があります。

ただし、

「いつか売上が増えるはず」だけでは弱い。

何が改善されていて、

いつまでに、

どの数字を、

どこまで持っていくのか。

ここまで考える必要があります。


「借りたお金で何を買ったか?」を説明できるか

借入をするとき、私はこの質問をかなり重視したい。

「借りたお金で、何を買ったのか?」

例えば、

「500万円借りました」

だけではありません。

「300万円で厨房設備を導入した」

「100万円を開業時の仕入れ・運転資金に充てた」

「100万円を広告・販売体制の構築に使った」

など、

資金の行き先を説明できる状態

にする。

さらに、

「そのお金によって、何が変わったのか?」

まで見る。

設備なら、

  • 生産能力が上がった
  • 人件費が下がった
  • 営業時間を増やせた

など。

広告なら、

  • 新規顧客が増えた
  • 店の認知が上がった
  • リピーターが増えた

など。

運転資金なら、

  • 売上入金までの時間差を埋めた
  • 安定した営業を維持できた

など。


借入の怖さは「返済額」だけではない

借入について、

「月々いくら返すのか」

を見るのはもちろん重要です。

でも、それだけでは足りません。

本当に見るべきなのは、

「その返済額を、どの利益から返すのか?」

です。

例えば、

毎月の返済が10万円。

営業利益が毎月30万円。

なら、利益から返済する余力があります。

しかし、

毎月の返済10万円。

営業利益が毎月5万円。

なら、

そもそも利益だけでは返済できません。

この差は大きい。

だから、

借入額ではなく、返済原資を見る。


「返せるか」を売上だけで考えない

例えば、

「月商500万円あるから、100万円借りても返せる」

という判断は危険です。

売上500万円でも、

原価。

人件費。

家賃。

広告費。

その他経費。

税金。

設備投資。

そして店主の時間。

これらを引いたあと、

実際にいくら残るのか

を見る必要があります。

前回の記事で考えた、

「利益」と「キャッシュ」

をここでも使います。

さらに、

「返済後にいくら現金が残るのか」

まで見る。


借入をする前に見る「5つの数字」

私は小さな店なら、最低でもこの5つを確認したいです。

① 現在の現預金

今、いくら持っているか。

② 既存の借入残高

すでにいくら借りているか。

③ 毎月の返済額

毎月いくら現金が出ていくか。

④ 営業利益

本業でどれくらい稼げているか。

⑤ 3〜6か月先の資金繰り

将来の支払いまで考えて、お金が足りるか。

これを見るだけでも、

「なんとなく借りる」

から、

「必要な資金を、必要な期間だけ調達する」

という考え方に変わります。


借入で「売上」を買うのか、「事業の力」を買うのか

ここは、これまでの記事とつながります。

例えば100万円を借りて広告を出す。

その結果、

100万円分の売上が増えた。

でも広告を止めたら売上も消える。

これでは、

借入で一時的な売上を買った

だけかもしれません。

一方で、

100万円を使って、

  • 顧客を獲得した
  • リピーターを増やした
  • 商品を改善した
  • ブランドを作った
  • 集客方法を確立した
  • 店舗運営を効率化した

のであれば、

借りたお金が、

将来の売上を生み出す能力

に変わっています。

もちろん、実際にどちらになるかは投資内容と実行次第です。

だからこそ、

「何に使うか」

が重要なのです。


「借りる前」より「返している途中」が大事

借入をした瞬間がゴールではありません。

むしろ、本当の経営はそこからです。

100万円借りた。

↓

何に使ったか。

↓

どんな結果が出たか。

↓

売上はどう変わったか。

↓

利益はどう変わったか。

↓

キャッシュはどう変わったか。

↓

返済しても資金が残るか。

このサイクルを見る。

つまり、

借入を「資金調達」で終わらせず、「投資の検証」にする。


返済できることだけを目標にしない

ここも大事です。

借入をすると、

「ちゃんと返済できればいい」

と考えがちです。

でも、

返済できるだけでは、必ずしも良い投資とは限りません。

例えば100万円借りて、

100万円を返せた。

でも、その間ずっと店主が長時間働き続け、

売上も増えず、

顧客も増えず、

何のノウハウも残らなかった。

これでは、

「借金を返した」

だけです。

一方、

返済しながら、

  • 利益が増えた
  • 店主の時間が減った
  • リピーターが増えた
  • ブランドが育った
  • 新しい商品が生まれた
  • 集客の仕組みができた

なら、

借入が事業の成長につながった

と考えられます。


「借りないこと」が必ず安全とは限らない

ここは、借入に対する考え方を少し逆転させるところです。

借入をしない。

↓

自己資金だけでやる。

↓

資金が足りない。

↓

広告を打てない。

↓

設備を導入できない。

↓

人を採用できない。

↓

店主が全部やる。

↓

機会を逃す。

ということもあります。

つまり、

借りない=安全

とは限りません。

借入をしないことで、

別のコストを払っている可能性もある。

そのコストが、

  • 機会損失
  • 店主の労働時間
  • 成長の遅れ
  • 売上機会の喪失

かもしれません。


逆に「借りられるだけ借りる」も危険

もちろん反対もあります。

「銀行が貸してくれるから借りる」

「使える融資枠があるから使う」

「今なら借りやすいから借りる」

という考え方です。

これは、

「借りられる金額」と「必要な金額」を混同しています。

借りられるから借りるのではなく、

「この事業に、この時点で、この金額が必要なのか」

を考える。


借入は「未来の自分との約束」

私は、借入をこう考えると分かりやすいと思います。

借入とは、未来の自分の利益やキャッシュから、現在の事業に資金を移すこと。

だから、

未来の自分が返せるだけの事業をつくる必要があります。

そして、

未来の自分が返しやすくなるように、

今のお金を、

売上を生み出す力

に変える。

これが借入の本質だと思います。


借りる前に、この7つを確認する

最後に、借入を検討するときのチェック項目をまとめます。

1.何のために借りるのか?

設備か。

運転資金か。

成長投資か。

資金繰り対応か。

2.そのお金で何が変わるのか?

売上か。

利益か。

時間か。

顧客か。

生産性か。

3.借りたお金は、何年使えるものになるのか?

1か月で消えるのか。

5年使える設備なのか。

顧客やブランドとして残るのか。

4.返済原資はどこから来るのか?

売上ではなく、

利益とキャッシュ

から考える。

5.売上が20%減ったら返済できるか?

順調な月だけで計算しない。

6.投資が予定通り進まなかった場合、どうするか?

売上が増えなかった。

採用できなかった。

設備効果が出なかった。

その場合のシナリオも考える。

7.返済が終わったとき、店に何が残っているか?

これが一番大事です。


借入の目的は「お金を増やすこと」ではない

借入をすると、手元のお金は増えます。

でも、それだけでは事業は強くなりません。

大切なのは、

借りたお金を、何に変えたか。

です。

100万円を借りて、

100万円分の支払いをしただけなのか。

それとも、

100万円を使って、

200万円、300万円と将来の売上を生む力をつくったのか。

店主の100時間を削減できる仕組みを作ったのか。

100人の顧客との関係をつくったのか。

自分の店だからこそ持てる商品やブランドを育てたのか。

ここに差があります。


借金を怖がるのではなく、構造を見る

借入は怖い。

これは間違いではありません。

返済義務がある以上、リスクはあります。

中小企業庁の調査でも、設備投資を控える理由として「借り入れ返済(リース支払)負担が重い」とする回答が一定割合存在しており、返済負担が経営判断に影響することは確認されています。

だから、

「借入は積極的に使うべき」

とも、

「借入は避けるべき」

とも一概には言えません。

見るべきなのは、

借りたお金が、どんな事業構造をつくるのか。

そして、

その構造から生まれる利益とキャッシュで、無理なく返済できるのか。

です。


「借りたお金が、何に変わったか」

これまで、

売上を見る。

利益を見る。

店主の時間を見る。

固定費を見る。

キャッシュを見る。

という話をしてきました。

ここに、もう一つ加えます。

借入を見る。

ただし、

「借金はいくらあるか」

だけではありません。

その借入によって、店に何が残ったのか?

を見る。

設備が残る。

顧客が残る。

ブランドが残る。

ノウハウが残る。

仕組みが残る。

店主の時間が増える。

そして、

借入を返済しながら、次の売上を生み出せる力が残る。

そこまでいけば、

借入は単なる「借金」ではなく、

事業を前に進めるために時間を買い、経営資源を先に手に入れるための資金調達

として機能します。

ただし、その判断には必ず、

「返済できるか」だけではなく、「返済したあとに何が残るか」

まで含めたい。

小さな飲食店にとって、本当に大切なのは、

借金がないことではなく、借りたお金を使ってもなお、未来のキャッシュを生み出せる事業になっていること。

だと思います。

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